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名古屋地方裁判所 昭和60年(行ウ)14号 判決

愛知県豊田市貝津町町屋一〇五番地

原告

成瀬保行

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

愛知県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地

被告

岡崎税務署長

甲斐鍵三

右指定代理人

杉垣公基

今野高明

谷端勉

川原雅治

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年七月一一日付でした原告の昭和五五年分所得税の決定及び昭和五六年分所得税の決定は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の昭和に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五五年分及び昭和五六年分(以下「係争各年分」という。)の所得税に係る課税の決定処分(以下「本件各決定」という。)、異議申立て、同決定、審査請求及び同裁決に至る経緯は、別紙課税等経過表に記載のとおりである。

2  しかしながら、本件各決定は、いずれも違法である。

3  よって、原告は、本件各決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2及び3の主張は争う。

三  被告の主張

原告は、その住所地において不動産業及び農業を営む個人事業主であるが、その係争各年分の所得金額及び所得税額は、別表1に記載のとおりであって、その範囲内でなされた本件各決定は、以下1及び2に記載のとおり、いずれも適法である。

1  係争各年分の所得金額及び所得税額の算定

原告の係争各年分の所得金額及び所得税額は、別表1に記載のとおりであるが、その算出根拠は、次のとおりである。

(一) 昭和五五年分事業所得の金額

(1) 総収入金額

原告の事業所得にかかる総収入金額は、別表2に記載のとおり、土地の譲渡によって得た合計金三一七五万〇二六〇円である。

(2) 売上原価

別表2に記載の各譲渡物件は、昭和四四年三月一日に競売により取得したものであり、売上原価は、当該競売における競売価額の金一六〇万円である。

(3) 一般経費

〈1〉 推計の必要性

原告は、本件各係争各年分について確定申告書を提出せず、そのため、被告の所部係官は、その所得金額確認のため、昭和五七年一一月九日、原告宅に臨場し、原告に対し、原告の本件各係争年分の所得税調査に来訪した旨を告げた上、帳簿等関係書類の提示を求めたほか、その後三回にわたり原告宅に電話をし、二回にわたり原告宅に臨場し、帳簿等関係書類の提示を求めた。これに対し、原告は、わずかに、被告所部係官が昭和五八年二月一日に原告宅に四度目に臨場した際、売買契約書、領収書の一部を提出したことを除いて、一向に調査に応じなかったため被告は、原告の係争各年分の一般経費については、実額で把握することができず、これは現時点(本件口頭弁論終結時である平成元年七月二四日)でも変わりはないから、原告の一般経費の額を推計する必要がある。

〈2〉 推計内容及びその合理性

一般経費は、別表3に記載の同業者の抽出基準により、同業者を抽出した上、当該同業者の一般経費の額を総収入金額で除して得た平均値(以下「一般経費率」という。)を、別表4に記載の昭和五五年分同業者比率表により算出し、これを原告の一般経費率と認め、前記(1)の総収入金額に乗じて、次の算式により算出したものである。なお、右同業者抽出基準により選定された各同業者は、いずれもその営業場所、業種、業態及び営業規模が原告と類似しているのであるから、右推計方法は合理的である。

(算式)

総収入金額×一般経費率=一般経費の額

131,750,260円×11.6%=3,692,555円

(4) 事業所得の金額(分離課税の事業所得)

事業所得の金額は、総収入金額から、売上原価及び一般経費を差し引いた残額で、次の算式により算出したものである。なお、別表2に記載の各土地の譲渡は、昭和五七年法律第八号による改正前の租税特別措置法(昭和三二年法律第二六号。以下「租税特別措置法」という。)二八条の四に規定する「土地の譲渡等に係る事業所得金額」に該当するため、総所得金額とは区分し、分離課税の事業所得となる。

(算式)

総収入金額-売上原価-一般経費=事業所得の金額

31,750,260円-1,600,000円-3,692,555円=26,457,705円

(二) 昭和五六年分の事業所得の金額

(1) 総収入金額

原告の事業所得に係る総収入金額は、別表5に記載の土地、建物の譲渡によって得たもので、合計金一億四四一四万八一四二円である。

(2) 売上原価

売上原価は、別表6に記載のとおり、合計金六六二六万六七九六円である。なお、別表6の物件番号1に記載の物件は、原告所有の安城市高棚町郷一〇五番地六筆の土地合計二〇一四・一四平方メートル(別表7の〈1〉)と訴外石川あや所有の同市同町郷四七三番及び同市同町同郷三五四番の土地合計一二四九・五八平方メートル(別表7の〈2〉)を市五三年八月三〇日に交換したものの一部であるが、右交換は等価交換であることから、その取得した土地は、原告所有の土地を譲渡し、その代金相当額をもって決済されたとみなされるため、その取得した土地の価額は、右交換時の時価が相当である。そして、右時価の算定に当たっては、近隣土地の売買実例により求めるのが最も合理的であるところ、右物件番号1の物件の交換時の取得価額は、別表8の計算根拠に記載のとおり、金一五六七万五三一八円となる。

(3) 一般経費

一般経費は、前記(一)(3)の〈1〉に記載の事情により推計する必要があったため、別表3に記載の同業者の抽出基準により同業者を抽出した上、当該同業者の一般経費率を別表4に記載の昭和五六年分同業者比率表により算出し、これを原告の一般経費率と認め前記(1)の総収入金額に乗じて原告の一般経費の額を次の算式により算出した。なお、右同業者抽出基準により選定された各同業者は、いずれもその営業場所、業種、業態及び営業規模が原告と類似しているのであるから、右推計方法は合理的である。

(算式)

総収入金額×一般経費率=一般経費の額

144,148,42円×4.52%=6,515,496円

(4) 特別経費

〈1〉 借入金利子

猿投農業協同組合からの借入金に対する利子

金十三万九八三〇円

〈2〉 地代家賃

名古屋市中区大須四丁目二番四十四号チサンマンション上前津四百六号室の事務所に係る貸借料

金三七万八〇〇〇円

以上合計 金五一万七八三〇円

(5) 事業所得の金額

事業所得の金額は、総収入金額から、売上原価、一般経費及び特別経費を差し引いた残額であるが、土地に係る事業所得があるため、租税特別措置法二八条の四第一項に該当する分離課税の事業所得と総合課税の事業所得を区分して、事業所得を算出する。

〈1〉 土地及び建物を一括譲渡している場合

別表5の物件番号5、6及び7の各物件の収入金額については、土地及び建物が一括して譲渡され、それぞれの価額が明示されていないことから、租税特別措置法二八条の四第一項の規定上、土地と建物の価額を区分して計算する必要があるところ、その計算方法及び結果は、別表9「〈6〉収入金額」の各B、C欄に記載のとおりである。なお、別表5の物件番号2の物件については、土地、建物の各価額が契約書により明らかであるため、その記載金額によった。

〈2〉 土地及び建物を一括取得している場合

別表6の物件番号5、6及び7の各物件の売上原価については、土地及び建物が一括して譲渡され、それぞれの価額が明示されていないことから、租税特別措置法二八条の四第一項の規定上、土地と建物の価額を区分して計算する必要があるところ、その計算方法及び結果は、別表10「〈6〉売上原価の額」の各B、C欄に記載のとおりである。なお、別表6の物件番号2の土地、建物の各売上原価は、競売における各競売価額によった。

〈3〉 一般経費及び特別経費

分離課税の事業所得と総合課税の事業所得の一般経費及び特別経費については、前記(3)に記載の一般経費金六五一万五四九六円と、前記(4)に記載の特別経費金五一万七八三〇円との合計金額七〇三万三三二六円を、別表11に記載のとおり、収入金額から売上原価を差し引いた差益金額から算定した分離課税分と総合課税分との割合(差益金額割合)で按分し、次の算式により算出した。

(算式)

総合課税の事業経費

7,033,326×3.21%=929,102

分離課税の事業経費

7,033,326×86.79%=6,104,224

(三) 不動産所得について

原告の係争各年分の土地、建物の賃料収入金額は別表12に記載のとおりであるが、原告は無申告であって経費支出の明細を申告せず、また、別表12に記載の建物は、取得時においてその法定耐用年数をすでに経過しており、その後に中古資産の減価償却費計算をしても本件係争年度前に償却可能限度額まで償却されていることになるため、償却費を経費として認めることはできず、したがって、右土地、建物の固定資産税額を控除した残額が原告の不動産所得額となるところ、別表12に記載のとおり、昭和五五年分は金六八万五六九〇円、同五六年分は金七〇万三七五〇円となる。

(四) 以上により、結局、本件各係争年分につき原告の納付すべき税額は別表1の「納付すべき税額」欄に記載のとおり、昭和五五年分につき金一一六万七九〇〇円であり、同五六年分につき金四二八〇九五〇〇円である。

2 本件各決定の適法性

原告が本件各係争年分について納付すべき税額は、前記のとおりであって、いずれもその範囲内で被告がした本件各決定は適法である。

四  被告主張に対する認否

すべて争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の係争各年分の所得金額について検討する。

1  昭和五五年分事業所得の金額

(一)  総収入金額

証人加藤政直の証言(以下「加藤証言」という。)及び同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第二号証によれば、原告の昭和五五年分の事業所得に係る総収入金額は、別表2に記載の各土地の譲渡によって得た金三一七五万〇二六〇円と認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  売上原価

成立に争いのない乙第二四号証の一ないし三及び証人新田喜男の証言(以下「新田証言」という。)によれば、別表2に記載の各土地の売上原価は、原告が右各土地を昭和四四年三月一三日に競売により取得した際に支払った金一六〇万円と認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  一般経費

(1) 推計の必要性

加藤証言によれば、原告は係争各年分の所得について確定申告書を提出せず、このため、被告の主張(一)(3)〈1〉に記載のとおり、被告所部係官において、原告宅を数回訪問して関係帳簿の提出を求めるなどしたが、原告は、一般経費について関係書類等の提出を一切しなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない上、本訴においても、昭和五五年分の一般経費の実額についての主張は、原、被告双方のいずれからも一切ないのであるから、右係争年分の一般経費については、これを推計によって算定せざるを得ないものというべきである。

(2) 推計による一般経費の額

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第一三号証の一ないし三及び乙第一四号証の一ないし三、加藤証言並びに新田証言によれば、別表3に記載の基準によって刈谷、岡崎及び豊橋各税務署管内から同業者を選定し、その昭和五五年度分の収入金額、一般経費及び一般経費率を調査したところ、別表4の昭和五五年度分の同業者比率表に記載のとおり、右各同業者の平均一般経費率は一一.六三パーセントであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右基準によって選定された各同業者は、いずれも原告とその営業場所、業種、業態及び営業規模が類似していると認められるから、前記(一)で認定した原告の昭和五五年分の総収入金額金三一七五万〇二六〇円に右算出に係る同業者平均一般経費率一一.六三パーセントを乗じて原告の同年分の一般経費の金額を推計する方法は合理的性がある。したがって、右推計方法に基づき被告の主張1(一)(3)〈2〉に記載の算式によって得られる金三六九万二五五五円が原告の昭和五五年分の一般経費の金額であると認めるのが相当である。

(四)  事業所得の金額(分離課税の事業所得)

事業所得の金額ば、(一)に記載の総収入金額から(二)に記載の売上原価及び(三)に記載の一般経費を差し引いた残額であるところ、被告の主張1(一)(4)に記載の算式によって得られる金二六四五万七七〇五円が、原告の昭和五五年分の事業所得となる。

2  昭和五六年分事業所得の金額

(一)  総収入金額

原告の昭和五六年分の総収入金額は、後記(1)ないし(7)に記載のとおり、後掲各証拠により、別表5に記載の各土地、建物を譲渡して得た合計金一億四四一四万八一四二円と認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる右認定に反する甲第一号証の記載は後掲各証拠に照らし信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 別表5の物件番号1の土地について

加藤証言及び同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第三号証の一によれば、原告は、訴外東海産興株式会社に対し、昭和五六年一月二六日、別表5の物件番号1記載の土地を譲渡して、金二二九一万二六四二円を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 別表5の物件番号2の土地及び建物について

成立に争いのない乙第四号証の一二及び一三、新田証言、同証言によって原本の存在及び成立が認められる乙第四号証の1ないし七並びに加藤証言によれば、別表5の物件番号2-1の土地及び2-2の建物につき、別表13に記載の譲渡経過をたどったかのような形となっていることが認められるが、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第九号証並びに新田証言によれば、右土地及び建物は、もと訴外大村基治の所有であったところ、原告がこれを競落し、訴外西川悦仲の仲介のもとに、右土地は訴外田島商事株式会社と訴外大村龍広に合計金七〇〇万円で、いずれも昭和五六年三月九日付けで譲渡し、右代金相当額を得たことが認められ、右認定に反する前掲乙第四号証の一ないし七の記載部分は前掲乙第四号証の一二及び一三、乙第九号証並びに新田証言に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 別表5の物件番号3の土地について

新田証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証並びに加藤証言によれば、原告は、訴外西春師勝土地株式会社に対し、昭和五六年七月三一日、別表5の物件番号3に記載の土地を譲渡して、金五〇〇万円を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(4) 別表5の物件番号4の土地について

成立に争いのない乙第一一号証の二、新田証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一によれば、原告は、訴外有限会社成田屋不動産に対し、昭和五六年一〇月八日、別表5の物件番号4記載の土地を譲渡して、金二六二〇万七五〇〇円を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(5) 別表5の物件番号5の土地及び建物について

加藤証言並びに同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第五号証の一によれば、原告は、訴外薫森哲夫外一名に対し、昭和五六年一〇月一五日、別表5の物件番号5記載の土地、建物を譲渡して、金一一〇〇万円を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(6) 別表5の物件番号6の土地について

成立に争いのない乙第二六号証の一及び二、新田証言並びに同証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証によれば、原告は、訴外水野孔一に対し、昭和五六年一〇月二日、別表5の物件番号6記載の土地を譲渡して、金二五〇〇万円を得たことが認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる右認定に反する乙第六号証の記載は前掲乙第一二号証、乙第二六号証の一及び二並びに新田証言に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(7) 別表6の物件番号7の土地及び建物について

加藤証言並びに同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第七号証によれば、原告は、訴外伊藤朝治に対し、昭和五六年一二月一四日、別表5の物件番号7記載の土地、建物を譲渡して金一五〇〇万円を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  売上原価

原告の昭和五六年分の売上原価は、(1)ないし(8)に記載のとおり、後掲各証拠により合計金六六二六万六七九六円であったと認められ、右認定に反する前掲甲第一号証の記載は後掲各証拠に照らして信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 別表6の物件番号1について

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから原本が存在しかつ真正に成立した公文書と推定すべき乙第三号証の三、新田証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第二八号証によれば、原告は、別表6の物件番号1記載の土地について、別表7に記載の経緯により、訴外石川あやから、昭和五三年八月三〇日、交換により取得したものであること、右交換は等価交換であることから、その取得した土地は、原告所有の土地を譲渡し、その代金相当額をもって決済されたとみなされ、その取得した土地の価額は、交換時の時価が相当であり、その算定に当たっては近隣土地の売買実例により求めるのが相当であるところ、右土地の買入価格とみなすべき交換時の時価は、別表8に記載の計算根拠により金一五六七万五三一八円と算定されること、右土地を取得するに当たり明渡料金八〇万円を含む合計金一一〇万九八二七円を取得費用として支払ったことが認められ、右認定に反する証拠はなく、結局、右土地に係る売上原価は、別表6の物件番号1の合計欄に記載のとおり、合計金一六七八万五一四五円である。

(2) 別表6の物件番号2-1について

前掲乙第四号証の一二及び一三、新田証言並びに同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第四号証の一一によれば、別表6の物件番号2-1の土地に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する乙第四号証の八及び九は前掲乙第九号証並びに新田証言に照らしていずれも真正に成立したものと認めるに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 別表6の物件番号2-2について

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第八号証並びに新田証言によれば、別表6の物件番号2-2の建物に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する乙第四号証の八および九は前掲乙第九号証及び新田証言に照らしていずれも真正に成立したものと認めるに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(4) 別表6の物件番号3について

加藤証言及び新田証言並びに弁論の全趣旨によれば、別表6の物件番号3の土地に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(5) 別表6の物件番号4について

前掲乙第一一号証の二及び新田証言によれば、別表6の物件番号4の土地に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(6) 別表6の物件番号5について

前掲乙第八号証、成立に争いのない乙第二五号証の一及び二、新田証言並びに同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第五号証の二によれば、別表6の物件番号5の土地及び建物に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(7) 別表6の物件番号6について

前掲乙第八号証及び新田証言によれば、別表6の物件番号6の土地及び建物に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(8) 別表6の物件番号7について

前掲乙第八号証及び新田証言によれば、別表6の物件番号7の土地及び建物に係る売上原価の内容及び金額は、同表の同物件番号欄に記載のとおりであると認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  一般経費

(1) 推計の必要性

加藤証言によれば、前記1(三)(1)に記載のとおりの事実が認められ、右認定に反する証拠はない上、本訴においても、昭和五六年分の一般経費の実額についての主張は、原、被告双方のいずれからも一切なく、必要経費の実額についての記載がある前掲甲第一号証についても前記のとおり信用するに足りないのであるから、右係争年分の一般経費については、これを推計によって算定せざるを得ないものというべきである。

(2) 推計による一般経費の額

前掲乙第一三号証の一ないし三、同乙第一四号証の一ないし三、加藤証言及び新田証言によれば、別表3に記載の基準によって刈谷、岡崎及び豊橋各税務署管内から同業者を選定し、その昭和五六年度分の収入金額、一般経費及び一般経費率を調査したところ、別表4の昭和五六年度分の同業者比率表に記載のとおり、右各同業者の平均一般経費率は四・五二パーセントであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右基準によって選定された各同業者は、原告とその営業場所、業種、業態及び営業規模が類似していると認めれるから、前記(一)で認定した原告の昭和五六年度分の総収入金額金一億四四一四万八一四二円に右算出に係る同業者平均一般経費率四・五二パーセントを乗じて原告の同年分の一般経費の金額を推計する方法は、合理性がある。

したがって、右推計方法に基づき、被告の主張1(二)(3)に記載の算式によって得られる金六五一万五四九六円が原告の昭和五六年分の一般経費の金額であると認めるのが相当である。

(四)  特別経費

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一五号証及び第一六号証並びに加藤証言によれば、原告の支払った昭和五六年分の特別経費の内容及び金額は被告の主張1(二)(4)に記載のとおりであると認められ、右認定に反する甲第一号証の記載は右各証拠に照らして信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(五)  収入金額等の按分

原告の昭和五六年分の事業所得の算定に当たっては、土地にかかる事業所得があるため、租税特別措置法二八条の四第一項に該当する分離課税の事業所得と総合課税の事業所得に区分して、事業所得を算出する必要があるところ、土地と、建物が一括譲渡された場合ないしは一括取得された場合については、右事業所得算出の前提となる収入金額、売上原価、一般経費及び特別経費を算出するに当たって、以下別表9、10及び11並びに後記(1)ないし(3)に記載のとおり、土地と建物に区分してそれぞれ算出するのが相当である。

(1) 土地及び建物が一括譲渡された場合の収入金額

〈1〉 別表5の物件番号2-1及び2-2について

右物件番号の土地及び建物に係る収入金額は、前記2(一)(2)で認定したとおりであるから、それによって区分した。

〈2〉 同表の物件番号5について

前掲乙第二五号証の一、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第一七号証の一ないし三及び乙第二九号証並びに新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物に係る収入金額は、売却時である昭和五六年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが合理的であるところ、同年分の右土地の相続財産評価額は金三一七万一四八〇円、右建物の相続財産価額は金一八六万七七〇三円であり、したがって、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地六二・九四パーセント、建物三七・〇六パーセントとなり、前記2(一)(5)で認定した右土地と建物を一括した収入金額である金一一〇〇万円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金六九二万三四〇〇円、建物金四〇七万六六〇〇円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

〈3〉 同表の物件番号6について

前掲乙第二九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第一八号証の一及び三並びに新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物に係る収入金額は、売却時である昭和五六年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが合理的であるところ、同年分の右土地の相続財産評価額は金三八三万五九七五円、右建物の相続財産評価額は金四二一万八一八九円であり、したがって、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地四七・六三パーセント、建物五二・三七パーセントとなり、前記2(一)(6)で認定した右土地と建物を一括した収入金額である金二五〇〇万円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金一一九〇万七五〇〇円、建物金一三〇九万二五〇〇円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

〈4〉 同表の物件番号7について

前掲乙第二九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第一九号証の一及び二並びに新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物に係る収入金額は、売却時である昭和五六年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが合理的であるところ、同年分の右土地に相続財産評価額は金二一九万三六二一円、右建物の相続財産評価額は金三六九万一九七〇円であり、したがって、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地三七・二七パーセント、建物六二・七三パーセントとなり、前記2(一)(7)で認定した右土地と建物を一括した収入金額である金一五〇〇万円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金五五九万〇五〇〇円、建物金九四〇万九五〇〇円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 土地及び建物が一括取得された場合の売上原価

〈1〉 別表6の物件番号2-1及び2-2について

右物件番号の土地及び建物に係る売上原価は、前記2(二)(2)、(3)で認定したとおりであるから、それによって区分した。

〈2〉 同表の物件番号5について

前掲乙第二九号証及び新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物の売上原価は、取得時である昭和五五年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが合理的であるところ、前掲乙第二五号証の一、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第一八号証の二、乙第三五号証の一及び二並びに弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第三六号証によれば、同年分の右土地の相続財産評価額は金二四三万九六〇〇円、右建物の相続財産評価価額は金一八六万七七〇三円であり、したがって、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地五六・六四パーセント、建物四三・三六パーセントとなり、前記2(二)(5)で認定した右土地と建物を一括した売上原価である金一二五六万円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金七一一万三九八四円、建物金五四四万六〇一六円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

〈3〉 同表の物件番号6について

前掲乙第一八号証の一及び二、同第二九号証並びに新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物の売上原価は、取得時である昭和五五年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが相当と認められるところ、同年分の右土地の相続財産評価額は金三三九万三三六三円、右建物の相続財産評価価額は金四二一万八一八九円であり、したがって、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地四四・五八パーセント、建物五五・四二パーセントとなり、前記2(二)(7)で認定した右土地と建物を一括した売上原価である金一四三一万六〇三六円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金六三八万二〇八九円、建物金七九三万三九四七円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

〈4〉 同表の物件番号7について

前掲乙第一八号証及び新田証言によれば、右物件番号の土地及び建物の売上原価は、取得時である昭和五六年分の相続財産評価額の構成比によって区分するのが相当と認められるところ、前記2(五)(1)〈4〉で認定したとおり、同年分の右土地及び建物の相続財産評価額の構成比は土地三七・二七パーセント、建物六二・七三パーセントとなり、前記2(二)(8)で認定した右土地と建物を一括した売上原価である金一四四七万〇五六五円は、これに右構成比を乗じて算出した土地金五三九万三一八〇円、建物金九〇七万七三八五円に区分するのが相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。

(3) 一般経費及び特別経費の按分

加藤証言によれば、分離課税に係る一般経費及び特別経費の金額と総合課税に係る一般経費及び特別経費の金額は、前記2(三)で認定した一般経費金六五一万五四九六円と前記2(四)で認定した特別経費金五一万七八三〇円の合計額である金六〇三万三三二六円を、収入金額から売上原価を差し引いた差益金額から算定した分離課税と総合課税の割合(差益金額割合)に按分して算出するのが合理的であると認められ、右認定に反する証拠はないところ、右算出方法によって右一般経費及び特別経費を按分すると、別表11に記載のとおり、総合課税に係る一般経費及び特別経費の合計金額は金九二万九一〇二円であり、分離課税に係る一般経費及び特別経費の合計金額は金六一〇万四二二四円である。

(六)  事業所得金額の算出

原告の昭和五六年分の事業所得は、前記記載のとおり、収入金額等を総合課税分と分離課税分に按分した上、それぞれにつき2(一)に記載の収入金額から2(二)に記載の売上原価、2(三)に記載の一般経費及び2(四)に記載の特別経費を差し引いて算出される金額であるところと、別表1の昭和五六年分の事業所得欄に記載のとおり、総合課税分については金九三六万二一五〇円、分離課税分についは金六一四八万五八七〇円である。

3  不動産所得

(一)  収入金額

新田証言および同証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証及び第二一号証によれば、原告の係争各年分の土地及び建物の賃料収入は別表12に記載のとおりであったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  不動産収入に係る経費

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立した公文書と推定すべき乙第二二号証及び第二三号証並びに新田証言によれば、別表12に記載の各物件の賃料収入に係る必要経費として別表12の各経費欄に記載のとおりの固定資産税を支出したことが認められ、他に右賃料収入に係る経費の支出を認めるに足りる証拠はない。なお、別表12の物件1の店舗の償却費についてであるが、成立の争いのない乙第三〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三一号証及び第三二号証並びに新田証言によれば、右店舗は明治三一年ころ建築された木造家屋であるところ、その法定耐用年数(二四年)は既に経過しており、原告はこれを昭和四五年四月八日に競落により取得しているが、このような場合、取得後の耐用年数は法定耐用年数の一〇〇分の二〇を乗じ端数を切り捨てた年数となるところ、右店舗の場合は四年となり、係争年である昭和五五年までにすべて償却されたことが認められるから、右店舗につき償却費を経費として計上することはできない。

(三)  不動産所得の算出

以上により、原告の係争各年分の不動産所得は、別表12の差引所得金額欄に記載のとおりである。

三  本件各決定の適法性

原告の係争各年分の所得に関する以上の各認定事実によれば、原告の係争各年分の納付すべき所得税額は、別表1の納付すべき税額欄に記載のとおり、昭和五五年分については、租税特別措置法二八条の四を適用して金一一六万七九〇〇円と算定され、昭和五六年分については、所得税法八九条の規定を適用して算出した金額と、租税特別措置法二八条の四を適用して算出した金額の合計額から、昭和五六年分所得税の特別減税のための臨時措置法(昭和五六年法律第九〇号)三条及び四条による特別減税額一五〇〇円を控除した金四二八〇万九五〇〇円となり、被告のした本件各決定に係る納付すべき税額は、いずれも右認定に係る税額の範囲内にあるから、本件各決定は適法である。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 裁判官 岩倉広修)

課税等経過表

一 昭和五五年分

〈省略〉

二 昭和五六年分

〈省略〉

別表1

税額計算表

〈省略〉

別表2

〈省略〉

別表3

同業者の抽出基準

岡崎税務署、刈谷税務署及び豊橋税務署管内において、不動産売買業を営む個人事業者で次の(一)及び(二)の条件のいずれにも該当する者

(一) 所得税法一四三条(青色申告)の承認を受けて、所得税の確定申告について、青色申告書を提出している者

ただし、次の各号に該当する者は除く

イ 年の中途において開廃業、休業をした者

ロ 他の業種目を兼業している者

ハ 更正又は決定処分が行われた者のうち、〈1〉国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者、〈2〉不服申立て又は訴訟中の者

(二) 各年分とも収入金額が原告の各年分の二分の一以上、二倍以下の範囲である者

別表4

同業者比率表

昭和五五年分

〈省略〉

昭和五六年分

〈省略〉

別表5

売却物件の明細表

〈省略〉

別表6

売上原価の明細表

〈省略〉

別表7

〈省略〉

別表8

〈省略〉

別表9

〈省略〉

※ 当該評価額は、路線価による。

別表10

〈省略〉

※ 当該評価額は、路線価による。

別表11

〈省略〉

〈省略〉

別表12

不動産所得の計算

〈省略〉

別表13

〈省略〉

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